2009年12月21日月曜日

人間健康科学+芸大プロジェクトチーム会合

人間健康科学高井リサーチセンターにて、芸大プロジェクトチームが作成した予備実験装置の紹介が行われる。 今回紹介した装置は以下の三つ。
<ハグマシン>
<二軸回転装置>
<色面変化スクリーン>

まず、ハグマシンについて。
ハグマシンンとは、自身も自閉症でありながら自閉症について著述することで独特の知覚世界・可能性を世界に知らせたアメリカの動物学者テンプル・グランディンが考案した装置で、不安にかられたときに精神を安定させるためのものである。 グランディンは、屠殺される前の牛を落ち着かせるために牛を締め付ける機械を元に、この装置を設計した。 今回は、グランディンによる設計図を元に芸大プロジェクトチーム(中原)が再現したものを持ち込み、参加者が試用する。 装置の中に四つん這いで入り込み、身体の両側面を板で挟み圧をかけていく。 圧迫の強さは自分の落ち着くレベルまで手元のレバーで調節することができる。
身体の向きを変えたり、体勢を変えたりしながらこの機械を検証する。
「確かに落ち着く気がする」
「あまり何とも思わない」
「背中が丸空きなのが不安」
「もっと強く締め付けられたい」
体型・年齢・性別の異なる複数の参加者からさまざまな感想があがる。
京大医学部と連携し、装置の効果について脳波測定など科学的な検証も行ってみようという意見があがる。
この機械はもともと自閉症者に見られる強度の精神不安や神経過敏を押さえるためにつくられたものだ。そういった不安は、自己(自我)意識の形成が不完全であることから生じるという。身体への強い圧迫(重力)が自分の存在を認識させ、安心させるのだ。わたしたちも感情のコントロールが未熟な幼少時に、狭いところに潜り込んだり布団を頭からかぶったりして安心したような経験はないだろうか?成長するにつれ、そういった不安を感じることが少なくなった。 もしかしたら、自己と他者(世界)との境界はとても曖昧なものなのかもしれない。とすれば、それはどういった経過で形成されていくのだろう。

現段階ではこれはグランディンの考案したものの再現にすぎない。これをもとに、プロジェクトでは試作・創作を続けながら人間の自己形成の過程を探っていくという。その成果は、展覧会ではどういった形をとるのだろうか?

色面変化スクリーン

最後に、色面変化スクリーンを見学する。 研究室奥に見える半円筒を寝かした形のドーム内に、ベッドが置かれている。
ドームはスクリーンになっており、LEDライトのコンピュータ制御により滑らかに滑らかに変化する色彩のスペクトル(赤-橙-黄-緑-青-藍-青紫の7色に分解した虹のように連続した色の帯)をベッドに寝転びながら鑑賞する。 鑑賞、といっても眼前はスクリーンだけしか見えないので、スクリーン(対象)と背景の区別はなく、ただ色彩だけが目に映る。



これは色彩が人間の知覚にどう影響するかを探るための装置だ。 以上が今回見学・体験した、ハグマシン・二軸回転装置・色面変化スクリーンの三つの装置である。

回転板実験

次に、二軸回転装置について。


部屋いっぱいの大きな円盤は、名の通り二つの軸を中心に回転するのだが、その二つの軸にとてもわずかなズレを作っているのだという。(詳しい仕組みはよくわからない) そのズレにより、円盤は地面と平行ではなくわずかに傾きながら回転する。 ズレは見た目では分からないほんの微細なものだが、その上で歩くと平衡感覚に少しずつ作用していき、人によっては立っていることすら困難になる。 また、目を閉じる、部屋の電気を消す、指向性スピーカーを用いて一定方向からのみ音を聞かせる、などの状態でも同じことを行う。
人は揺れる船に乗ると船酔いする。しかし、船で何時間も揺られたあとに陸に降りると、今度は陸に酔ってしまう。 人が垂直に立つ、というのはとても当然のようなことであるが、「立つ」という行為にはたくさんの要素が必要なのだ。 どこから音が聞こえてくるか、光は何処から射しているかを感じ、重力を体で受け止め、周囲の建物など垂直に立っているであろうものと自分とが平行であるかを確かめる。 身体感覚だけでなく、視覚・聴覚・記憶などの複数の器官・情報が脳の中で統合されて、やっとまっすぐに立つことができるのだ。
この装置・環境ではそういった自己定位が脳内でどうなされているのかを探っている。